招待状が届いた日 〜 腐れ縁の場合 〜




『あ、鮎川?あんたのとこにも招待状来たでしょー?』

―― 仕事が終わって帰ってきた所で、いきなり鳴った電話から聞こえてきたのは呑気なあの女の声だった。

「んだよ、こっちは海外出張から帰ってきたばっかだっての。」

『ああ、それでここんとこ電話がつながんなかったわけね。高卒の入社5年目に海外出張だなんて、“三代目”は随分あんたの事、信頼してんじゃない。
ま、そんなことはどーでもよくてよ、今帰ってきたんならポスト見たでしょ?』

・・・・お褒めの言葉、アリガトウ。

それで俺が時差ボケで疲れてるとか、そういう思考へはいかないわけかよ。

まあ、そういう女だってのは知ってるけどな。

「なんだよ?招待状だって?」

子機を肩と首の間に挟んで、俺は足で部屋のドアを開ける。

『それが面白いんだって。いーからさっさと見つけな。』

「へいへい。」

妙にはしゃいでいる声に適当に答えつつ、さっきポストから適当に掴んできた郵便をリビングの机の上にぶちまけて・・・・俺はぴたっと手を止めた。

ダイレクトメールやら、仕事関係の手紙やらの無愛想な封筒に混じって一通だけ、薄いピンクの封筒。

宛名は ―― 梨本つぶらと、高屋敷昴。

・・・・かつての想い人と、恋敵(ライバル)。

「招待状ってつぶらちゃんと、高屋敷のやつかよ?」

『そーよ。あんた中身見た?』

「いや、見てねーけど・・・・わかんだろ、普通。今年で確か卒業だったしな。」

高校時代、チームを組んで色々やらかした事がある二人は普通に四年制大学に進んで今年卒業だったはずだ。

高屋敷は紳士の顔して、意外に暴走野郎だからさっさと捕まえると思ってたぜ。

つぶらちゃんも、天の邪鬼だからな。

あんな子につきあえるのはきっと高屋敷ぐらいだ。








―― だから、この中身はきっと結婚式の招待状 ――








・・・・そろそろ、俺も覚悟を決めるか。

『鮎川』

「あ?なんだよ。」

『あんた・・・・』

珍しく探るような声に、俺は苦笑する。

俺が傷ついてんじゃねえかとか、余計なこと考えてるぜ、きっと。

「別になんとも思わねーよ。あんたでも、そんな心配すんだな。」

『バカ。私は優しいおねえさまなのよ。』

「へーへー。それで?優しいおねえさまの感想はいかがなもんなわけ?」

電話の向こうでぐっと詰まった気配がする。

まあな、こいつも確か今年で29だったよな。

教え子に先こされちゃあ、かたなしだ。

『あたしゃいーのよ。そのうちこの上ない、いい男がプロポーズにくんだから。』

「それは・・・・困んな。」

するっと言葉が出た。

強がりだってのはわかってっけど、もし強がりじゃねえと困る。

それに・・・・ちょうどいいチャンスだからな。

俺は子機を今まで封筒を弄んでいた右手に持ち替えると、左手をまだ脱いでもいないジャケットのポケットに突っ込んだ。

指にあたる固い感触は、ビロードの指輪ケース。

ちっ、シュチュエーションって奴も考えてたのによ。

相変わらず邪魔ばっかりしてくれるな、高屋敷、つぶらちゃん。

「おい、紅咲小町。」

『なんだよ、呼び捨てかい?』








「とびきりのいい男が、電話口であんたの左手薬指にぴったり合う指輪を持ってんだけど、受け取る気は?」









『は・・・・・・・』

ガチャッ!ガチャッ!ゴンッ!

5cmぐらい耳から離した受話器から聞こえてきた、どう考えても向こうで受話器を落とした音に俺はこらえきれず笑い出した。

『あ、ちょっと切れてない?!鮎川?!なんか今聞こえた気が・・・・何笑ってんのよ?!鮎川?!』

まったく、この調子で一体どんな男からプロポーズを受けるつもりだったんだか。

『ちょっとー!聞きなさいよ!・・・・冗談なの?』

ほら、んな弱気な声出すなよ。

そんな事じゃあ、あんたに俺が高校の時から惚れてたって事はバラせねえな。

聞き出してみな、レディ


一生付き合ってやるからさ。

『鮎・・・・拓?たーく?!たく、たく、たく』

「あー、わかったから連発すんな。しょーがねーな。もう一回だけだぜ・・・・」

今度はもうちょっと直接的な言葉で。

受話器の向こうで固まっているだろう、あいつの返事を待ちながら俺は机の上に置いたピンクの封筒を開けた。

二つ折りの白いカードの、内側におきまりの招待の言葉と、付け加えられた『よかったら来て』という台詞。

そしてもう片面に張られている写真を見て、俺は苦笑した。

やっぱりあの梨本の兄貴達に苦労したみたいだな。

俺もそうなんないように、せいぜい気をつけるぜ。

『私・・・・』

受話器の向こうの声に集中するために、俺は机に招待状を放り出した。








――数秒後、がらにもなく赤面なんかしている俺を、幸せそうなつぶらちゃんと、目の下の思い切り殴られた跡が痛々しい高屋敷の写真が、笑っていた・・・・















                                    〜 終 〜






― あとがき ―
森生まさみ先生、『聖はいぱあ警備隊』完結おめでとうございますーーー!!!
終わっちゃうのは寂しいけど、つぶらちゃんも見事幸せを体当たりで掴んだしv
・・・・というわけで、大好きな脇役に二次創作なんか書いてしまいました。
この2人はかなり幸せになって欲しいんです。
なんか小粋な会話してて、2人のシーンがお気に入りだったんで。
最終巻の読み切りに、ちょっとこの二人のエピソードが欲しかったなあ、とも思っちゃったんですけどね。
だから書いちゃった、って感じでしょうか。
なにはともあれ、鮎川〜、紅咲先生〜。幸せになってね〜vv